1. はじめに
石油精製業界では、原油から得られる重質油や残油の有効活用が重要な課題となっています。従来の精製技術では、これらの低価値な油を処理する際に固形コークスが生成され、処理効率や環境負荷の面で課題がありました。
千代田化工建設が開発したユリカ®(EUREKA®)プロセスは、触媒を使用せずに熱分解を行い、重質油を高付加価値の燃料油へと変換する技術です。本記事では、ユリカプロセスの仕組み、特徴、課題、価格競争力、そして今後の展望について詳しく解説します。
2. ユリカプロセスの誕生の背景
ユリカプロセスは、石油精製業界における重質油の有効活用という課題を解決するために開発されました。
開発の目的
- 重質油の有効活用
- 石油精製の過程で発生する減圧残油(VR)やアスファルト分は、従来のコーキングプロセスでは固形コークスとして処理されることが多く、経済性や環境負荷の面で課題がありました。
- これらの低価値な油を高付加価値の燃料油へと変換する技術が求められていました。
- 従来技術の限界
- コーキングプロセスでは、固形コークスが生成されるため、処理効率が低く、設備の運用コストが高くなる傾向がありました。
- また、環境負荷の観点からも、よりクリーンな処理技術が必要とされていました。
- ユリカプロセスの開発と導入
- 千代田化工建設は、触媒を使用せずに熱分解を行う方式を採用し、重質油を分解・改質する技術を開発しました。
- この技術により、分解ガス、分解留出油、芳香族石油ピッチを生成し、資源の有効活用を実現しました。
- 特に、分解ガスを燃料ガスとして再利用することで、運用コストの削減が可能になりました。
- 富士石油袖ヶ浦製油所での導入
- ユリカプロセスは、富士石油の袖ヶ浦製油所で導入され、30年以上にわたり運用されています。
- 運用を続ける中で、設備の改良や副産物の有効活用が進められ、より効率的な精製プロセスへと発展しました。
3. ユリカプロセスの技術的特徴
触媒不要の熱分解方式
ユリカプロセスは触媒を使用せずに熱分解を行うため、設備の運用コストを抑えつつ、安定した分解反応を実現できます。ただし、原料の性質によって生成物の品質が変化するため、適切な原料選定が重要です。
芳香族石油ピッチの有効活用
分解後に生成される芳香族石油ピッチは、製鉄用コークス粘結剤として利用されるものの、需要が限られているため、余剰分の処理が課題となることがあります。液体ピッチのガス化技術が開発されており、今後の商業化が期待されています。
環境負荷の低減
分解ガスには硫黄化合物や窒素化合物が含まれるため、脱硫・脱窒処理が必要になります。特に、アミン吸収による硫黄回収プロセスの負荷が高く、運用コストの増加要因となることがあります。
設備の耐久性とメンテナンス
高温での分解反応を行うため、設備の耐久性が重要になります。炉内のコークス付着や熱劣化による設備の摩耗が問題となり、定期的なメンテナンスが必要です。
4. 実際の運用と導入事例(海外事例を含む)
国内事例:富士石油袖ヶ浦製油所
ユリカプロセスは、富士石油の袖ヶ浦製油所で30年以上にわたり稼働しており、改良を重ねながら運用されています。従来のコーキングプロセスと比較して、過熱スチームの吹き込みによる分解油の品質向上や、ピッチの液体ハンドリングが可能な点が特徴です。
海外事例:カタールガス(Qatargas)
カタールガスでは、重質油の分解・改質技術を活用し、低価値な残油を高付加価値の燃料油へと変換するプロセスを採用しています。これはユリカプロセスと同様に、熱分解反応を利用して分解ガス、分解留出油、芳香族石油ピッチを生成するものです。
特徴
- 分解ガスは脱硫処理後、燃料ガスとして再利用される
- 分解留出油はガソリンや軽油の原料として活用
- 芳香族石油ピッチは製鉄用コークス粘結剤として利用
この技術は、カタールの石油精製業界において、環境負荷の低減と資源の有効活用を目的として導入されました。
5. ユリカプロセスの価格競争力
ユリカプロセスで生み出された製品は、高付加価値の燃料油(ガソリン・灯油・軽油)をより多く製造できる点が強みとされています。
価格競争力のポイント
- 高付加価値製品の生産により市場競争力が高い
- 副産物の有効活用(燃料ガス再利用、コークス粘結剤)
- 触媒不要によるコスト削減
ただし、原料の制約や環境規制対応が競争力に影響を与えるため、今後の技術改良が重要となります。
設立費用
ユリカプロセスの設備導入には、数百億円規模の投資が必要とされます。主な設備として以下が含まれます:
- 加熱炉(重質油の分解反応を促進)
- 分解装置(熱分解による生成物の分離)
- 排ガス処理設備(硫黄・窒素化合物の除去)
運用費用
運用費用には以下の要素が含まれます:
- 原料費(重質油の調達コスト)
- エネルギーコスト(加熱・分解プロセスのための燃料や電力)
- メンテナンス費用(設備の耐久性維持、定期点検)
- 環境対策費(排ガス処理、硫黄回収)
長期運用によるコスト削減の可能性もあり、設備の改良によって運用効率を向上させることが期待されています。
6. ユリカプロセスの課題
課題 | 改善策 |
---|---|
原料の制約 | より幅広い重質油に対応できるようプロセス改良を進める |
副産物の処理 | 芳香族石油ピッチの用途拡大や液体ピッチのガス化技術の商業化 |
環境負荷 | 排ガス処理技術の改良やCO₂排出削減の取り組み |
設備の耐久性 | 耐熱材料の改良や運用最適化によるメンテナンス負担の軽減 |
7. 改善策と今後の展望
ユリカプロセスは、重質油の有効活用技術として重要な役割を果たしています。今後は、環境負荷の低減や副産物の有効活用を中心に技術改良が進められ、より持続可能な石油精製プロセスへと発展していくことが期待されます。
8. まとめ
ユリカプロセスは、石油精製業界における重質油の有効活用技術として大きな可能性を持っています。今後の技術改良により、環境負荷の低減や副産物の有効活用が進み、持続可能な精製プロセスの実現に貢献することが期待されます。
この技術の発展が、石油精製業界の効率向上と環境負荷低減にどのように貢献するか、今後も注目していきたいところです。
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